(*本記事はビール王国Vol.2からの転載です。)
前号(ビール王国 Vol.01)では、シュピゲラウ <ビールクラシックス> テイスティング・キットのグラスが、ビールの個性や特徴を引き立てるようにデザインされていることを紹介した。
そこで今号では、シュピゲラウの2大定番グラスである「インディア・ペール・エール」と「ビール・チューリップ」を基準として、自分好みの味わいを知るためにグラスの深遠なる世界を探訪したい。
ランビックはレモンのような柑橘系の香りだけでなく、ホースブランケット(馬の鞍の下に敷く毛布)や、カビのような香りにも喩えられる。
その独特の個性に魅了され、虜になるか、苦手と感じるか、2つに分かれることが多い。
しかし、グラスの機能を上手に使えば、ランビックの個性をコントロールすることも可能になる。
Glass:シュピゲラウ <ビールクラシックス> ビール・チューリップ
3,000円(ペア/税抜)H155㎜
もっともポピュラーなデザインで、さまざまなスタイルのビールと相性がいい。外に広がった縁がモルトやホップのフレーバーを豊かにする。
Beer:ランビック Cantillon Gueuze
野生酵母が醸すビールで酸味が非常に強い。木樽で3年以上熟成したドライで酸味の強い古酒と1年熟成のまだ甘味が残っている新酒をブレンドしてボトリング。
藤原基準となる「ビール・チューリップ」でランビックを飲んでいただきました。印象はいかがでしょう。
福山酸っぱい!最初に苦さも感じますが、かなり酸っぱいですね。
藤原レモン果汁やビネガー、パッションフルーツのような味わいにも喩えられます。
ソーゼットタンニンのような苦みが残ります。飲み慣れていないと苦手でしょう。単体で飲むより、料理と組み合わせて飲みたいビールですね。
藤原どんな料理が合うでしょうか?
ソーゼット味の濃い料理がいいと思います。豚バラ肉をランビックで煮込んでもおいしそう。肉の脂とこの酸味が合うと思います。スパイスを効かせたザワークラウトも相性がよさそうです。
藤原ベルギーでは、ランビックでムール貝を蒸したりもします。
山崎グレープフルーツのような香りもあるので、サラダにも合いそうです。
藤原日本酒と比べていかがでしょうか?
福山「山廃」や「生酛」のように酸度の高い日本酒もありますが、さすがにここまで酸っぱいものはないです。
藤原それでは、グラスによる味の違いを試してみましょう。
ソーゼット苦みを強く感じますね。
藤原ランビックが持つカビくささや納屋のような香りが強調されますね。この手の個性の強いビールが好きな人にはおすすめですね。
ソーゼット酸味が強調されるけど、香りはやさしくなりますね。
アンギャルこのグラスは、舌の両脇にビールを向かわせますからね。酸味を感じやすくなりますね。グラスの飲み口が広いので、舌の上をワイドに広がって流れます。ランビックに慣れていない人には、マイルドな風味になるこのグラスがいいかもしれないですね。
福山熱狂的なランビックファンなら物足りないかもしれません。
藤原確かに、香りの個性が穏やかになるので、このグラスでマイルドにする、というテクニックはアリですね。とくに、このランビックのような独特の味わいを持つビールを初めて飲む場合の“慣らし運転”には、いいと思います。
藤原4はフルーティー。酸味の強い果実感ですね。パッションフルーツを連想する。
山崎バランス良く感じますね。モンラッシェ3とは酸味の感じ方が対照的です。
ソーゼットアタックが優しい。
アンギャル4は、舌先に触れるように作られているので甘さが強調されます。舌全体に広がらずにその状態をキープできるんです。バランスはいいですが、やはりランビックの個性がマイルドになりますね。
藤原5と比較していかがですか?
山崎5の方が酸味が出ます。4が一番酸味が少なく感じますね。
ソーゼットランビックの個性が、いちばんマイルドになる印象だね。
山崎味はマイルドですが、これまでとはちょっと違う香りが立つような気がします。
アンギャルその通りです。このグラスは、ボルドーの複雑な香りを解きほぐすことに眼目を置いてデザインされています。ですから、ある特定の香りを際立たせるのではなく、ランビックの中に隠されたほんのわずかな香りも探せるのです。
藤原なるほど。リーデルのグラス形状は、まさしく「機能美」なんですね。ところでソーゼットさん、白ワインやシャンパンの酸味と比べていかがですか?
ソーゼットこれほど酸っぱいシャンパンはないですよ。ただ、酸味は基本味の中でも料理への影響が最も大きいとされているので、上手に料理と組み合わせれば、ランビックの楽しさはぐっと広がると思います。
藤原欧米では当たり前ですが、日本でも早晩ビールもワインやシャンパンと同じように、料理と組み合わせて飲むようになるでしょう。そのためにも、グラスを変えて味や香りの変化を楽しむ、というステップをしっかり持ちたいですね。
ソーゼットビールをよく知っている人ほど、個性的な味わい方や料理とのペアリングをグラスで演出してほしいですね。そうすれば、ビールライフがもっと豊かなものになるんじゃないかな。
「インディア・ペール・エール」と「ビール・チューリップ」、そしてリーデルのグラスが6種類。
それぞれ人数分用意したので、グラスの総数は40客となった。
IPA(インディア・ペール・エール)は、かつてイギリスからインドへペール・エールを運ぶため、長い航海に耐えられるように防腐効果の高いホップを大量に入れ、ハイアルコールに仕上げたスタイルと言われている。しかし、もともとそのようなペール・エールがあり、それがインドへ運ぶビールとして選ばれたという説も。
Glass:シュピゲラウ <ビールクラシックス> インディア・ペール・エール
3,500円(ペア/ 税抜)H 186㎜
IPAの特徴である華やかなホップの香りが見事に広がるグラス。
ベース部のくぼみが泡をリチャージしてくれ、香りをしっかり閉じ込め、最後まで楽しませてくれる。
Beer:ファイアストーン ユニオンジャックIPA
ホップの香りを高めるドライホッピングを2度行なっているアメリカンスタイルのIPA。パイナップルやグレーフルーツのような香りと、ホップの苦み、モルトの甘さとのコントラストが楽しめる。
問合せ:リーデル・ワイン・ブティック青山本店
☎ 03-3404-4456
オンラインショップ:https://www.spiegelau.co.jp/product.html
藤原それでは、IPAのテイスティングに移りましょう。
山崎この「インディア・ペール・エール」グラスは、私の店でも使っています。傾けるたびに、泡がどんどん作られる。本当によく考えられたビールグラスだと思います。
アンギャル香りを閉じ込める泡はとても大切です。ですから、飲み終わるまで泡を残したいという思いがあり、泡をリチャージする機能を持たせたんです。
藤原では、飲んだ感想をお願いします。
ソーゼット苦みと甘みのコントラストが非常にはっきりしています。正直なところ、口に含んだ時には、生栗を食べた時のような渋味と苦味を感じましたが、不思議なことに、すぐ慣れて、ふた口目からはおいしく感じてきました。
アンギャルホップの味はついつい欲しくなってしまいますね。味覚のストレッチが起こるんです。
福山あ、わかります、それ。実は昔ながらの造り方をする「生酛」は、酸味が強くて飲めなかったんです。でもだんだん好きになっていくんですよね。クセのある味のほうが、かえって好きになることって、多いですよ。IPAの苦みやランビックの酸味も同じですね。
藤原それでは、違うグラスで飲んだ感想をお願いします。
ソーゼットIPAは、ランビック以上にグラスによる香りの違いが出るね。1はパイン。2はグレープフルーツのような香りが立ち上る。
藤原ホップの香りもストレートです。それにIPA独特の苦みがしっかり伝わってくるね。特に1が力強い。
山崎苦みの印象が強くなります。
ソーゼットこれはオレンジを感じる。オレンジの砂糖漬け。ビターオレンジのような香りだね。
藤原カラメルの香りも立ってきました。
福山IPAの苦みが少し気になったのですが、このグラスは和らげてくれますね。香りも好きです。
アンギャル飲み口が広い分、ビールがゆっくり流れ込んでくるので、甘みが口に広がりやすいんです。
山崎IPAと5の組み合わせは、見た目の印象は異なりますが、「インディア・ペール・エール」グラスと非常に近い苦味と甘味のバランスです。4はもう少しストレートに苦味を味わいたい感じがします。
アンギャル5は、口への液量の入り方が実は「インディア・ペール・エール」グラスに近いんです。
藤原4はホップの香りの余韻が長く楽しめます。
ソーゼット4は、ミックスフルーツみたいな香りになるね。フルーツの盛り合わせのような。ぼくは、このグラスでIPAの甘い香りを楽しみたいな。
福山私も苦いのはちょっと苦手なので、4のグラスでフルーティーなIPAに仕立てたいですね。
山崎6のボルドーは、このIPAでも他のグラスでは感じなかったスパイシーな香りが微かにします。
藤原かつ、香りがゆっくりと立ち登ってくる感じがします。ところで日本酒やカクテルもグラスを使い分けるんですか?
福山最近は大吟醸のような華やかで香り高い日本酒も多く好まれているので、香りを引き立てるためにワイングラスを使うことがよくありますね。
山崎カクテルも基本形はありますが、そのお酒をどう飲みたいかによってグラスを変えます。
藤原香りを重視するならこのグラス、ドライ感を優先するならこのグラス、という具合ですか?
山崎はい。まさにおっしゃる通りです。
藤原なるほど、ビールに限らず、お酒とグラスの関係は奥深いんですね。
アンギャルビールの方がワインより香りの変化が大きいですね。レンジが広い。特に苦みとランビックのフェロモンのような香りはワインにはないですね。
藤原ビールはモルト、ホップ、イースト、水、場合によっては副原料のスパイスなどが入っているものもあります。キャラクターが多いんです。味の要素も苦み、甘み、酸味といろいろありますから、一段とグラスによる違いが出てくるのでしょう。これを機に皆さんもランビックやIPAも楽しんでください。クセになると思いますよ。
ソーゼットグラスには味覚を左右するパフォーマンスが秘められていることを再認識しました。ビールも、大切に飲みたいと思えばこそ、しっかりとグラスを選んでほしいですね。まずは、シュピゲラウのグラスをスタンダートとして、そこから、自分の好みを探すといいでしょう。
藤原ビールとグラスの関係は奥が深く面白いですね。お酒に精通した皆さんならではの貴重なご意見は参考になりました。
取材協力:赤坂sansa
定休日:日曜
☎ 03-3583-4200
E-mail:publicspace@beersansa.info
選りすぐりのドラフトビールはリーデルのグラスで供される。
ビアスタイルとのカップリングがよく考えられた料理の数々も評判だ
Wolfgang Angyal[Wolfgang_Angyal]
RSN Japan株式会社 代表取締役社長 / シュピゲラウ・ジャパン ビアグラス・エデュケイター
オーストリア生まれ。1985年「技能五輪国際大会」で金メダルを受賞。 その後「辻学園日本調理師専門学校」で教授を務める。2000年より現職。 グラスとワインの関係を、最初に日本人に認識させた。
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