【シュピゲラウ・ワークショップ】ヤッホーブルーイング三人衆とシュピゲラウクラフトビールグラスの開発者がよなよなエールのためのグラスを探す

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グラスによって、ビールの味わいを大きく変えることを世に知らしめたシュピゲラウの「クラフトビールグラス」。その開発責任者であるシュピゲラウ USAの副社長、マット・ルトコフスキーさんが先ごろ来日。ならば生みの親にグラスの解説をしてもらいながら、ブルワーに自身が造ったビールにぴったりのグラスを選んでもらおう、と相成った。舞台は、ヤッホーブルーイングの佐久醸造所だ。

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一行を迎えてくれたのは、ヤッホーブルーイング醸造ユニットのメンバーである岡秀憲さん、下川泰弘さん、そして井沢礼子さんの三人。今回の企画は、シュピゲラウ製のグラスを7脚用意し、その中から同ブルワリーの「よなよなエール」に一番ふさわしいグラスを、ワークショップスタイルで選ぶというもの。さっそく、マットさんにシュピゲラウグラスの、特徴の説明をお願いしよう。

「ビールの評価は、まず、液色、香り、味わい、喉ごし、そして余韻という5つ要素があります。これらすべてを損なうことなく、飲む人に伝えることがグラスには求められます」

とマットさん。

もちろん、シュピゲラウのグラスはそのすべてを完璧に備えている。例えば液色。一般的なグラスは、原料に使用される珪砂に不純物である鉄化合物が混じっているため、緑色を帯びる。ほとんどの鏡やガラステーブルのエッジが濃い緑に見えるのはそのためだ。シュピゲラウのグラスは、光ファイバー等に使用する純度の高い珪砂を使用しているため透明度が高いのだ。また、製造工程に使用するチューブにプラチナを採用した「プラチナ製法」で耐久性を向上させている。同社のホームページには、テーブルに並んだワイングラスを次々に倒すデモンストレーション映像がアップされているので、その強さをご自身の目でお確かめいただきたい。

「ビールを造る際にブルワーが原材料を吟味するのと同様に、我われもグラスの原料や製造工程は日々研究を続けています」(マットさん)

それでは、ワークショップの様子を報告しよう。用意したグラスは次の7脚。

①IPA
②スタウト
③アメリカン・ウィート・ビール/ヴィットビア
④ビール・チューリップ
⑤ラガー
⑥ピルスナー
⑦ヘーフェ・ヴァイツェン

このうち、①.③がブルワーとのコラボレーションで誕生した「クラフトビールグラス」シリーズだ。
まずは、それぞれのビールによなよなエールを注ぐ。ここで、すでに7つのグラスの個性の違いを確認できる。

「同じように注いでも、泡の消え方がまったく違います」(マットさん)「あ、ホントだ」と岡さん、下川さん、井沢さんの言葉が重なる。
背の高いピルスナーやへーフェ・ヴァイツェンは注いでから1分ほど経っても泡が消えない。逆に、チューリップはほとんど残っていない(写真)

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マットさんの前に並ぶのが今回テイスティングした各ビールグラス。右からチューリップ、アメリカン・ウィート、スタウト、IPA、ラガー、ピルスナー、ヘーフェ・ヴァイツェン。写真は注いで約1分の状態。グラスによって泡の状態が大きく違うことがおわかりいただけると思う

「泡はビールにとってひじょうに重要なファクターなので、それぞれのキャラクターに合った泡になるよう、形状を工夫しています」とマットさん。

えっ、ホントによなよなエール!?
造った本人たちも疑う変わりよう

「まずは、よなよなエールに相応しくないと思うグラスを3つ外しましょう」というマットさんの言葉を受け、3人のテイスターの試飲が始まった。ひとつずつ、丁寧にアロマの立ち方を検証している下川さんに、そのポイントを聞く。
「グラスによってモルトの香り方がずいぶん違います。よなよなエールのバランスが崩れてしまうものがあるので驚きました」

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ヤッホーブルーイングのテイスターの皆さん
①国際コンペの出場経験もある岡秀憲さん、②下川泰弘さん、③井沢礼子さん

続いて井沢さん。
「私も香りの立ち方をポイントにしました。ホップ、エステル、その他よなよなエールが持つ香りのバランスが、私のイメージするものかどうか、です。しかし、こんなにグラスによって香りのバランスが変わるとは、正直なところ信じられない気持ちです」

岡さんにいたっては「ホントに、全部よなよなエールだよね?」と、スタッフに確認するほど。
グラスによってこれほどビールの味わいが変わることに、全員が驚いた様子だ。
一時して、マットさんから指示があった最初に外す3つのグラスを発表してもらうと、期せずして、3人ともラガー、ピルスナー、へーフェ・ヴァイツェンを選んだ。

「何も議論をしていないのに、3人とも同じグラスを選ぶとは不思議ですね」(岡さん)。

「この3つのグラスは、よなよなエール特有の、軽やかなオレンジ香がもったりとしてしまうんです」(井沢さん)

残ったグラスは4つ。ビール王国のテイスティングでも使用する「チューリップ」、ビアグラスの概念を大きく変えた「IPA」「スタウト」そして最新作の「アメリカン・ウィート」だ。

その次に外されたのは、スタウトとチューリップ。

『スタウト』はカラメルモルトの甘い香りが強調され、若干ですがバランスを崩している」。と井沢さん。チューリップは「否定する部分がない」という下川さんに対し、「アルコール感が強い」と岡さん。

「ご指摘のように、『スタウト』は、スタウトやポーターの、苦味の中に隠れている甘さを引き出すように設計されていますし、『チューリップ』はウェルバランスなグラスですが、ブランデーグラスがそうであるように、口に入る液量が少ない。アルコールは少量でも敏感に察知しますが、ビールの風味や味わいは、ある程度のボリュームがないとわかりにくい。そのために、岡さんはアルコールが強いと感じたのではないでしょうか」(マットさん)

残るはアメリカン・ウィートとIPA。

「アメリカン・ウィートはエレガントな風味が楽しめ、IPAはキリッと硬派な印象になります」(岡さん)

「個人的には、IPAで飲んだ時のドライなテイストも好きですが、よなよなエール本来のキャラクターというと、アメリカン・ウィートで飲んだイメージかな」(下川さん)

「アメリカン・ウィートで飲むと、よなよなエールの豊かな香りや風味が、女性的というか優しいラインになり過ぎるような……」(井沢さん)

これまで、スパっと決めてきた3人だが、さすがに、この2つのグラスでは甲乙つけがたい様子。
悩んだ末に「よなよなエール本来のバランス」を重視し、今回のワークショップでは『アメリカン・ウィート』をベストパートナーとした。

「みなさんがホップヘッズであれば、間違いなく『IPA』を選んだと思います(笑)。
今回のワークショップは、みなさんがご自身の造ったビールに明確なイメージを持っていらしたので、ひじょうに的確に、グラスのキャラクターを判断していただきました。貴重なご意見をありがとうございました」

マットさんの言葉を受け、岡さんが締めくくってくれた。「正直なところ、この取材のお話をいただいた時、グラスでそんなに味わいがかわるの?と思っていました。ホップの香り、モルトの風味はもちろん、形状に由来する口の中に流れ込む液量など、よくよく考えれば味わいが変わるのは当然なのですね。いや、ホントに驚きの経験をさせていただき、こちらこそありがとうごいました」

今回、よなよなエールのベストパートナーに選ばれたアメリカン・ウィート

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<クラフトビールグラス> アメリカン・ウィート・ビール/ヴィットビア(2個入)
¥3,780(税込)
http://shop.spiegelau.co.jp/products/detail.php?product_id=47

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すべてはIPAから始まった
シュピゲラウUSA 副社長
マット・ルトコフスキー

「クラフトビールグラス」シリーズは、ブルワーとのコラボレーションで誕生した。
「最初に開発したのは『IPA』です。これは、ドッグフィッシュ・ヘッドのサム・カラジオーネ氏とシエラ・ネヴァダのケン・グロッスマン氏との出会いがなければ誕生しませんでした」。
ワイングラス、パイントグラス、取り混ぜ12種類でテイスティングを繰り返し行い、最終フォルムを決定したとのこと。
これからも、さまざまなスタイルに合せたビアグラスを開発するとのことなので、当分、シュピゲラウから目が離せそうにない。

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Wolfgang Angyal[Wolfgang_Angyal]

RSN Japan株式会社 代表取締役社長 / シュピゲラウ・ジャパン ビアグラス・エデュケイター

オーストリア生まれ。1985年「技能五輪国際大会」で金メダルを受賞。 その後「辻学園日本調理師専門学校」で教授を務める。2000年より現職。 グラスとワインの関係を、最初に日本人に認識させた。

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